竹内太郎 アーリーギター・リサイタル

先週土曜日の夜、静岡市呉服町で古楽器奏者の竹内太郎さんの演奏会が開催されました。
私は、彼の演奏を聴くのは今回で2回目でした。
以前、静岡市油山のバッハハウスでリュートバロックギターの演奏で楽譜を見ながらルネッサンス期からバッハまで演奏していたのが印象的でした。その時の説明では、楽譜を見ながら演奏する事は当たり前で、なにも憶えて弾く必要は有りませんよ、と言われたことが、いつも楽譜無しでは演奏できない私にとってはまさに「福音」でした。まあ楽譜と言っても、彼が弾く古い楽曲ではそのほとんどが簡単な記号の様なタブラチュアで、即興性が求められる高度な技なのですが。
竹内さんは古楽器の世界ではとても有名で現在ロンドンに在住しており、今回は3月まで日本に滞在する予定との事でした。

プログラムは2部構成になっており、1部ではバロックのギター音楽、2部では18世紀後半のギター音楽でした。

1部
作者不詳:スペイン舞曲
カヴァリエリ:フィレンツェの歌
シャコンヌによる即興
グラウンド

2部
ヘンデルメヌエット
シュトラウベ:ラルゴ
バイロンアルマンド
ジェミニアーニ:感傷的なメヌエット
モーツァルト:すみれ


今回のコンサートも、古楽器や古い音楽の解説などを交えた演奏はとても興味深いものばかりでした。
使用した楽器はマーシャル作のバロックギター(パリ、1760年頃)とプレストン作のイングリッシュギター(ロンドン、1770年頃)でした。

バロックギター


中央のホールには羊皮紙で造られたロゼッタがはめ込まれています。これは音の流れを制御し、複雑な倍音を生み出すために有るようです。もちろん音量は小さくなります。オーケストラピットなどで大きな音が必要な場合はこのロゼッタが無い楽器を使う様です。弦はガット(羊の腸)で、フレットももちろんガットです。フレットが可動するのはリュートと同じですが、弦の精度が悪いガットでは必要なのだと思います。また、平均律発明以後は音程は固定になりましたが、それ以前は自然音階が使われていましたから、調毎に微調整が効くのは都合が良いのだと思います。


イングリッシュギター

18世紀のイギリスではギターと言えばこの鉄の弦を張ったシターンが使われた様です。
当時の上流階級の女性が演奏する楽器はごく限られており、それまでチェンバロが主流だったのが、18世紀中頃からこのイングリッシュギターに人気が集まったとの事でした。弦はスチール(鋼鉄)ではなくアイロン(軟鉄)が使われていて、音量も小さく非常にデリケートな楽器でした。指板はべっ甲でフレットが打ってあります。糸巻きは当時の時計職人が造った精巧なねじ式で、現在でもトラブルが少なく秀逸だとの事です。

演奏法の解説では、プンテヤード、ラスギアード、トリモッロ、レピッコなどの紹介が有りました。

これが楽譜です。

私たちが日頃目にしている音階の楽譜とは全く違う、記号のタブ譜ですね。



実はこのコンサートの行われる数時間前に同じ場所でレクチャーがあったのですが、残念ながら仕事で参加できませんでした。(涙)
古楽器や古い舞曲などの奏法や歴史的な解説などを交えたこのレクチャーではどの様な話があったのかとても気になりますね。
時間のあるときに、主催者の杉山さんに教えてもらおうと思っています。

今回の演奏会にはゲスト出演で焼津市出身のソプラノ歌手の加藤早紀さんが出演して、古楽器と人の声との相性の良さを披露しました。

アンコールも入れると5曲ほど歌ってくれました。
目の前で繰り広げられる貴重な2時間は、まさにサロンコンサートの醍醐味と言った感じでした。

この演奏会の後、打ち上げにも参加して、竹内さんから面白い話をたくさん聞き大変勉強になりました。
17世紀のイギリスの高名なリュート作曲家ジョン・ダウランドの話になると、彼はリュート界の手塚治虫の様な存在ですね、ととても判りやすい表現で熱く説明してくれました。古楽器を演奏するためには当時の人々の暮らしや価値観を理解する必要が有るのだと、氏の話を聞きながら感じました。

良い勉強になりました。


ヤギモク 遠藤