上棟日和

先週末、担当している住宅の上棟式が行われました。
静岡県浜松市やその周辺地区では今でも上棟の際に餅まきを行う習慣が残っています。
餅まきは、正式には散餅銭の儀(さんぺいせんのぎ)と言い、古くから行われている上棟式の重要な儀式の一つです。

ここで正式な上棟式と略式とを比較してみましょう。

「正式」
修祓の儀(しゅばつのぎ) 祭りに先立ち、参列者やお供え物を清めます。
降神の儀(こうしんのぎ) 祭壇の神籬(ひもろぎ)に、神を迎えます。神職が「おおー」と叫びます。
献饌の儀(けんせんのぎ) 神に祭壇のお供え物を食べていただきます。
祝詞奏上(のりとそうじょう) 建物を建てることを神に告げ、安全を祈ります。
四方祓の儀(しほうはらいのぎ) 土地の四隅をお祓いをし、清める。
曳綱の儀(ひきづなのぎ) 紅白の綱で棟木を曳き上げます。
槌打の儀(つちうちのぎ) 棟木を棟に打ちつけます。
散餅銭の儀(さんぺいせんのぎ) 餅とお金を撒きます。
玉串奉奠の儀(たまぐしほうてんのぎ)神前に玉串を奉じます。
撤饌(てっせん) 酒と水の蓋を閉じお供え物を下げます。
昇神の儀(しょうしんのぎ) 神籬に降りていた神を天の御座所に送ります。
直来(なおらい) お下がりの御神酒で乾杯します。


「略式」
まず略式では、神の依り代に神籬(ひもろぎ)ではなく弊串(へいぐし)をもちいます。
神籬(ひもろぎ)とは神社や神棚以外で祭りを行う際に、臨時に神に降臨して貰うための依り代のことです。
ひもろぎには一般的に常緑樹である榊(さかき)が使われます。地鎮祭などで祭壇の中央に紙垂(しで)を垂らした榊を立てるのはこのためです。
弊串とは、御幣を木や割竹などにはさんで紙垂などの飾りを付けた幣束の事で、梵天(ぼんてん)とも呼ばれます。

これが弊串(梵天)です。上棟の際には必ず目にするおなじみの物ですね。

本来はこの弊串に神を迎えるための降神の儀(こうしんのぎ)を行い、式の最後には、神を天にお返しする昇神の儀(しょうしんのぎ)をやるのですが、神官がいる訳ではないので、略式では棟梁と施主が直接この弊串に向かい、工事の無事と立派な完成をお願いし、お参りをするのです。もちろんお参りは、二拝二拍手一拝の作法で行います。
その際、神前には神饌(しんせん)と呼ばれるお供え物が置かれます。
お供えには、御神酒、水、洗米、塩、鏡餅、果物、魚などを用いますが、基本的には、御神酒、洗米、塩などを使います。

このお参りの後、四方払いの儀として、御神酒、洗米、塩を建物の四隅に撒いて清めます。棟梁や施主さんがこれらのお清めをします。
そしてその後に散餅銭の儀として餅まきが始まります。

静岡県では、まず四隅に隅餅とよばれる少し大きめの餅を一つずつ撒きます。その後、全員で餅撒きが始まります。
餅は紅白で、二つずつ袋詰めされています。餅と同時にお金(五円玉)をおひねりにして撒きます。子供用にお菓子を撒くこともあります。
餅撒きの人数は、縁起の良い奇数です。以前は男性だけが撒いたのですが、最近は女性も参加することが多くなりましたね。

地域によっては、屋根の上に笹で作った大きな「破魔矢」を鬼門の方角に向けて掲げるなど、賑やかな飾り付けがされる場合もありましたが、最近では略す様になりました。



餅撒きの時間が近づくとご近所の人たちが、三々五々集まってきます。

足場の上に餅を準備します。

まず建物内で式を行った後、四方のお清めを行い、
隅餅を撒いて、いよいよ全員での餅撒きの開始です。






大勢の人が参加するこの様な光景はとても少なくなって来ましたが、静岡県の西部地域ではこの様な風習が今でもしっかり残っています。
参加するたびになぜか嬉しくなります。

ヤギモク 遠藤