囲いをまとう箱

先週、裾野市で地元の建築家、根上英志氏の自邸の建て方作業がありました。

一昨年の秋、ご自分で設計された自邸の建設を請け負う業者を探していた根上さんが、私のこのブログを見て相談に来られました。
その時、図面ではなく模型を持ってこられたのですが、とても興味深いコンセプトでした。

氏は学生時代にインドで、多くの住宅を調査された経験から、住まうこと、家族の繋がり、そして部屋の役割など、有機的に絡み合う多くの要素を出来る限りシンプルにとらえることで、住居を囲いの中と外との関係に置き換え、生活の場をそれぞれの空間にはめ込んでみることで、成り立たせようとする、いわば検証のための住宅を自邸として設計されたのです。
内側の箱はRC構造で、外側の箱は木造です。この入れ子になった構成が、家の中に囲いを創り出す仕組みなのです。


そのため、外側の箱には8メートルのスパンの屋根が必要になります。
この程度のスパンであれば集成材の梁を飛ばしてむりやり掛けることも可能ですが、東大の研究室の稲山先生に構造計画に協力を依頼したところ、このおもしろいコンセプトに共感していただき、構造計画全般を見ていただくことになりました。

まずはロングスパンの屋根をどうやって軽快に掛けるかがポイントでした。
先生からいくつか案を頂き、何度か根上さんと東大に出かけ、今回採用した張弦梁に落ち着きました。
相談中に先生がその場でアイデアを紙に描き、電卓で計算しながら具体化するのですが、興味深い光景で、よい勉強になりました。

その張弦梁がこれです。


下弦材は16φの丸鋼で、端部にフォークエンドを着けて梁を持ち上げています。


南面は全く壁が無いため、木造でこれを実現するためには一般的にはラーメン構造になるところを、内側の箱であるRCの躯体を反力壁にして、水平力に抵抗することで成り立たせています。しかし、北面の壁の剛性とのアンバランスがあると偏心率が悪くなります。それを解決するために両脇の柱を大きくして、中間のRCとのつなぎ梁の上部の柱の曲げ剛性とバランスさせる事で解決しています。

構造計算は、周囲の面材耐力壁を許容応力度計算の詳細計算法で計算し、更に仮想的にブレースに置き換える「ブレース置換法」を用いて、フレーム解析ソフトのマイダスに入力しフレーム解析を行っています。

根上さんとは、この住宅のためにお互いにアイデアを持ち寄り、一つひとつ問題点を解決しながら進めてきました。
やっと建物の形が見えてきたのでホッとしています。

これから工事が進み、徐々に形が整って来ます。
楽しみです。


ヤギモク 遠藤