被災建物応急危険度判定士の訓練

1月17日は兵庫県南部地震阪神淡路大震災)の起きた日でした。1995年のこの日に起きた地震の被害は未だに記憶に新しく、私たち住宅を設計する人間にとって特別な想いが有ります。震災当時、静岡県からも何人もの応急危険度判定士がボランティアで現地に入りお手伝いをしています。私の住む静岡県ではこの30年間、ずっと地震への警鐘が鳴らされ続けてきました。そのため毎年、防災の日の9月か、この1月17日には地震関連の訓練が有り、今年も応急危険度判定士の連絡訓練が行われました。
私は藤枝市の判定士に登録されていますので、この訓練に参加いたしました。

訓練の内容は、連絡網の確認です。市内の地区毎に決められた判定士が、相互の連絡を取り合い、行政からの依頼や指令などのメッセージを伝達するのです。
訓練は、朝の9時に地震が起きたとの想定で、市役所から地区リーダーに指令伝達がされ、その後各メンバーに伝言ゲームの様に受け渡され、また役所へ戻ると言うものです。チームの組み合わせが少しずつ変更されながら、もう十数年も同じ訓練をやってきました。


訓練の為の書類


地震被害を最小にするためには地震の事を良く知らなければなりません。
ここで豆知識を少し・・

地震と建物の関係に注目してみます。

一般的に地震は震度階と言われるランクで呼ばれます。震度1から震度7までが有ります。
以前は震度階の判定を人の感覚で決めていたそうですが、それでは曖昧であるとのことから、現在は複数の測定器のデータから計算で求めます。

以前、社内教育用に作った資料から震度階の一覧を見ます。

最近の気象庁のホームページではこの様な震度階の一覧は掲載していませんが、以前は目安として地震学会などでも示していました。

建築の世界ではこの地震を2つに分けて考えます。
ひとつは「希に起きる地震」(震度4程度)
もうひとつは「極めて希に起きる地震」(震度6強〜7)です。

そして、耐震性能の目指すところは
  希に起きる地震に対して、外壁などの脱落などが無いようにする。
  極めて希に起きる地震に対しては、建物が壊れても、倒壊だけはさせない。 です。

建築技術者が建築物の耐震性能を考えるとき、大切なのは建物に入力される加速度が重要なのです。

なぜなら、ニュートンの第二法則に有るように
  力 = 質量 × 加速度 (F=Mα)
  つまり、建物に掛かる地震力を求めるのには、建物の質量と、それに掛かる地震加速度が必要なのです。

基準法で決められている加速度は、
  希に起きる地震 = 200gal
  極めて希に起きる地震 = 1000galです。
  (ここで、980gal=1G:重力加速度です)
つまりこの力に建物は耐えなければなりません。

では一覧表と比較してみましょう。
表では震度7で400gal以上、と有ります。
おかしいですね、先ほど極めて希に起きる地震は1000galと紹介しました。
実はこれは地面の加速度なのです。建物には更に増幅されて、400galの2.5倍の1000galが掛かるものとしているのです。
しかし、阪神淡路の震災では800galを越える地面の加速度が記録されています。
つまり基準法で定めた数値では足りないとの見方もできるのです。

実大震動実験の資料を見てみましょう。

この資料では、地表が800galで揺れた場合、屋根では1700galが測定されています。
2.5倍までは行かないまでもとても大きな加速度ですね。しかし想定より小さいです。
なぜなら、Ai分布と言って、地震の揺れは上階に行くほど大きく掛かる事になっているからです。
2階のAi分布値は1.2〜1.3程度ですから、800×2.5×1.2は2400galになります。
しかしこれには訳が有ります。
地表の加速度が建物にどの様な影響を及ぼすのかをグラフで見てみましょう。
このグラフでは地面が800galの加速度で揺れた場合の建物の揺れを計算で出したものです。

グラフの見方は、横軸が建物の固有周期 縦軸が建物に掛かる加速度です。
(どんな建物にも固有周期が有る、新築で0.2秒、古い建物で0.3秒程度と言われています。)
しかし振動した建物は地震が終われば揺れが止まります。これは物質には振動を抑える性質が有るからです。
この性質を減衰と呼び減衰常数で現します。
減衰常数hの大きさ(2%〜20%)により4種類のグラフになっています。
一般に建物の減衰常数は5%で考えるため、グラフより、0.2秒の固有周期で1100〜1200galの加速度が掛かります。
これは2階の床面の加速度ですから、実大実験の屋根では更にAi分布で増幅されて1700galになったものと思います。
(この建物は固有周期が0.2秒より少し長い。)
(ここでは触れませんが、木造の減衰常数は実はもう少し大きいのです)
この様に建物に地震力が増幅されて掛かるのですから、阪神大震災の様な地震では、基準法で定めた1000galでは足りない?と言う意見も当然あります。実は私もそう思います。
そのため、性能表示制度では耐震等級3では1.5倍の1500galとしています。
更に軟弱な地盤では割り増しも必要です。

そこで、耐力壁の量がどの程度余裕が有るのかが大切になりますね。
実は住宅には雑壁と呼ばれる、計算には入れないがそれなりに耐震性能の有る壁が有ります。
この様な壁がスクラムを組んで建物全体で抵抗しているのです。
更に、構造計算(許容応力度計算)にはかなりの安全率が見込まれていて、これも余裕分になっています。

地震の話を始めるとキリが無いので今日はこの辺でおしまいにします。



ヤギモク 遠藤