柱脚接合部の試験その3

本日、静岡県工業技術研究所で行ってきた柱脚の接合部試験がすべて終了しました。
長い時間が掛かった試験でした。
試験をしていただいた工芸科の赤堀さん、佐野さんには本当に感謝です。

この接合部試験の試験方法は、昔やっていた単調加力だけの単純な試験ではありません。なぜなら、実際の建物の接合部では地震などの際に繰り返しのダメージを受けます。そのダメージに近づける為、試験体に繰り返し加力を与えます。
具体的にはどうするのかと言えば、まず試験体を一体だけ単調加力で試験します。

そのデータは大体この様になります。


データ処理してピックポイント(降伏点などの分析をするソフト)で解析をします。そして降伏点Pyを求めて、その時の変位量δyを調べます。その変位量の0.5倍、1倍、2倍、4倍、8倍、16倍の変位まで達した時に加力を止め、除荷します。つまり加力をゼロにします。(実際には3%程度は残しますが)そしてまた加力をスタートします。繰り返しと言っても耐力壁のように3回も行わず、1回除荷してまた加力するのです。

これを実際にやるとこうなります。

このグラフの場合はδyが18.41㎜だったため、試験は、9.2㎜引っ張って戻し、次に18.41㎜引っ張ってまた戻し、その次は36.82㎜という順番で、6体の試験体を次々と試験します。とても面倒です。このグラフの試験体は繰り返しは3回で終わりでした。これらの作業をプログラム制御でおこなえれば良いのですが、そうはいきません。試験器の表示をじっと見ながら、変位量が既定値に達したら試験を中断し、手動で除荷し、またスタートするのです。また、外部変位計をリンクできれば良いのですが、そうはいかないため、試験器のストローク変位計を見ながら手動で制御します。もちろんデータその物は側面に付けた変位計の変位量と、試験器のロードセルの値で計算するわけですね。変位量が思いの外大きいのはその様な事情があります。

この試験方法は住木センターの「木造軸組工法住宅の許容応力度設計2008年版」に乗っています。

私たち研究者の間では、この本を「新グレー本」と呼んでいます。(表紙がグレー色の為)

短期許容耐力はどの様に出すかと言えば、まずこれらの繰り返し試験を6体以上おこない、それらのPmax(最大荷重)の2/3の加重(2/3Pmax)と降伏点Pyの値をそれぞれ求め、それらの5%下限値をバラツキを評価しながら求め、その2つの値の小さい方を基準耐力とします。その値を接合部の施工条件などを加味しながら短期許容耐力を決めます。



前回の「その2」では梁上の柱脚部接合耐力の測定まででしたが、今回はいよいよ柱を基礎へ直接緊結する為の柱脚金物の試験です。

これが柱を基礎へ直接緊結するための金物です。

このドリフトピン3本の仕様で、30キロニュートンの短期許容耐力が得られる優れものです。

さてこの試験体をセットするとこの様になります。

実はこの試験体の単調加力のグラフが先ほどのグラフです。
最大でなんと72キロニュートンでした。
30キロニュートン用の金物ですから倍以上の加重ですね。

終局はこの様な状態になります。

しかし、おそるべし・・・HSB−30KN。


さて次は更に強い40キロニュートン用の柱脚金物です。
ドリフトピンが1本多く、試験もさすがに怖くなってきました。

試験体はこれです。

足元の鋼板もシャコマンでは耐えられず、急遽鋼材にボルト締めに変更しました。

この単調加力は最大荷重点が85キロニュートンでした。
それを元に繰り返し加力が続きます。

私も疲労の極致といった状態です。

試験体の残がいです。

ドリフトピンはこんな状態になります。



この様な地味な試験ですが、実際にやってみると様々な事が分かります。
これらのデータから、今後の耐力壁の柱脚の基礎データが得られ、私の大学院での研究にも大いに役立ちます。

データ処理が終わり、それぞれの短期許容耐力が出たらまた報告します。


ヤギモク 遠藤