UD工芸研究会バス見学会・その2

さて、飛騨・世界文化センターの次はいよいよ工場見学です。
見学先は柏木工さんです。

工場入り口にはライオンのオブジェがお出迎えです。

まずはレシーバーを付けて案内の山本さんの後に付いて行きます。

見学コースは素材から始まり、出荷待ち製品のストックヤードで終了します。


材料は北米からの輸入です。木取りは社員が現地に行って柾目取りなど必要な状態で製材させるようです。
樹種はオークとウォールナットが多いようです。

柏木工さんはトヨタ生産方式を採用しています。
工場内には「カンバン」と呼ばれる伝票が有り、その指示により全体が動いています。
飛騨の家具の特徴である曲げ木には皆興味津津でした。
曲げ木は、まず「蒸し箱」と呼ばれる釜の中で蒸されます。それを型に入れてプレスで曲げます。
ここの蒸し箱はチューブ形状で、蓋を開けて蒸し上がりをチェックする様は、料理人が素材の蒸し加減を確認するような感じでした。もちろんそれぞれの釜毎に時間も計測しています。

すぐ横にはプレス機が有り、厚い板も一気に曲がります。3〜5センチ程度の板を曲げるようです。

曲げた材料は鉄の型に入れたままテンションを掛けて乾燥させます。

ミヒャエル・トーネットが発明したこの曲げ木技術は木のもつ特性を上手く利用した技術です。
曲げる板には厚さがあるため、普通に曲げると中立軸を中心に外側が引張り力を受け、内側が圧縮力を受けます。
木材はその組織に導管(針葉樹では仮導管)が有り、中空の部分が多く存在します。そのため空げき率の違いにより比重が変わります。
木組織は圧縮では内部の空隙がつぶれて大きな変形能力があります。しかし引張りには組織が破断してしまい表面から見ると引張り力と直行方向にひび割れが生じ、製品にはならなくなってしまいます。そこで引張り側にスチールの型板をあてがい、木組織がそれ以上引っ張られることを防止しながら、圧縮側のつぶれにより板材を変形させるのです。木材を圧縮して形や性質を変える技術も最近では多く使われるようになってきましたが、この様な方法を19世紀に発明したトーネットは、ブナの木を使った曲げ木の椅子を大量生産して大成功を収めました。
工場内にはこの様な木製のオブジェもさりげなく置いてありました。

工場内では曲げ木のような特殊な加工以外、各パーツの生産に関しては、一人の職人が素材から生地仕上げまで一人で行う「セル生産方式」が採用されていました。これはライン生産より品質を安定させる事が可能だとの事でした。
セル生産では、人の作業スペースの周囲に使用する機械を並べ、順番に一人の人が切り出しからラフ仕上げ、仕上げまで一貫してその場で行うのです。当然造ったパーツの品質責任はその一人の職人が負います。
機械は多めに必要ですが、職人のモチベーションが上がり、結果的には良い製品になる様です。
気になるカンバン方式ですが、やはり製造部材によっては機械の段取り換えに時間が掛かるため、完全なカンバン方式では上手くいかないため、ある程度の部品の見込み生産を併用していると、解説の山本さんは申し訳なさそうに話していました。
製品納期はすべて2週間とのことですが、製造量は当然注文量によりアップダウンします。
暇なときはどうするのか、の問に対し、生産スピードを落とすことはせず、空いた時間は社員を早めに帰してしまうそうです。これには驚きました。つまり、ゆっくり製造する癖が付くと普段の作業に問題が出るため、だらだらした作業をさせるくらいなら、有給で休ませてしまった方が良い、との考えです。凄いです。
そして、暇な部署が忙しい部署の応援に加わる事もしょっちゅう有るようです。その場合、多能工の育成が重要で課題でもあると言っていました。

見学が終わった後も皆から30分以上質問が続き、なかなか終了しませんでした。
それに対して一生懸命答えていただいた山本さんに感謝です。
良い勉強をしました。

ヤギモク 遠藤