100℃以下の中温ドライイングセット

先週の木材新聞に面白い記事が載っていました。
「中温でも割れない乾燥」というタイトルでした。

これはスギやヒノキの柱や桁などを乾燥するための技術革新の記事です。
岡山県林業研究所と院庄林業静岡県島田市にある大井川製作所の3者で100℃以下の中温でドライイングセットを作る技術を共同開発した様です。また特許を取得して、広く水平展開していくとの事です。

さて、この記事に書かれている中温でのドライイングセットとは何でしょうか?
木材は芯を持ったまま自然乾燥させると必ず表面に割れが入ってしまいます。これは直径方向と外周方向との収縮率の違いから起こる現象ですが、特殊な乾燥方法を行うと割れのない芯持ちの無垢材が作れます。この特殊な乾燥方法が木材の表面に「ドライイングセット」と呼ばれる状態を作り出すため割れないのです。
方法はまず乾燥庫内で100℃程度で蒸気とともに8時間ほど蒸煮し、その後温度を上げつつ湿度を下げます。乾球温度計で120℃、湿球温度計で90℃位の状態で8時間ほど熱すると、柱の表面に縮む応力が発生しそのまま残存応力となります。それがドライイングセットですが、そのまま乾燥温度を90℃以下に下げて柱内部の水分を徐々に抜いていくとキレイな割れのない無垢柱が出来ます。これが今までの高温ドライイングセットによる乾燥でした。
しかし、高温で乾燥させると柱の表面が変色し、木材が持つテルペン類などの芳香成分なども飛んでしまうため本来の木材の風合いが減少してしまう問題点も有りました。
この記事ではこれまで120℃まで上げていた温度を、100℃以下の加熱で表面に収縮する応力を発生させて固定させる「セット」状態を造り出す事に成功した様です。この技術のキモは、乾燥中に乾燥庫内を減圧して沸点を下げながら処理する事です。当然減圧させるためには一般的な乾燥庫ではなく、減圧タンクの様な大きな圧力容器が必要になります。その分、設備費も大きくなり、乾燥コストも高くなるように思います。

2年前、このドライイングセットを九州大学の藤本登留先生に木造建築コースの授業で習いましたが、その時にセットが出来ているかどうかを見分ける方法を習いました。

1ミリ程度の薄さで輪切りにした木材を見れば表面に残留応力が掛かっているかどうかすぐに判ります。


この様に薄くスライスします。
すると下の写真の様になります。
切片の周囲が縮もうとしてたわんでいます。
これがドライイングセットです。

それに比べ、セットが掛かっていない切片は周囲がまっすぐです。


一般的な木造住宅では未乾燥で背割り入りの柱を用いてきました。材木としての未乾燥無垢柱は、表面に乾燥によるひび割れが入ると商品価値が落ちるため、背割りと言われる溝を入れます。溝は丸鋸の刃の厚さなので最初は3ミリ程度ですが、しだいに木材の自然乾燥とともに開いてきて、柱の断面が変形していきます。柱全体が変形することにより表面にはひび割れが入らないのですが、この変形は無視できない程度まで広がるため、仕上げ材への影響も出てきます。なんか本末転倒の様な話ですが、実は今も行われている加工なのです。
そしてこの背割り柱はメタルジョイントとの相性が悪いこともあり、ヤギモクでは使用していません。
最近は乾燥の技術が少しずつ進化して来たため、無垢の柱でも背割りのない材料が手にはいるようになってきました。そのため、以前は集成材でしか使用できなかったメタルジョイントも、これらの無垢柱が使える様になってきました。

地域材をしっかり使っていくためには乾燥はとても重要です。
この記事のような技術が安く利用出来るようになれば、更に木造住宅の可能性が広がりますね。


ヤギモク 遠藤