粘弾性体を用いた合板耐力壁の動的特性

先日資料を整理していたら以前試験した合板耐力壁による制震工法の試験データが出てきました。
これは耐力壁の合板と柱の間にテープ状の粘弾性体を挟み込んで釘打ちすると、家全体の等価粘性減衰常数が増大し、速度依存による剛性も高まり結果として等価耐力が増す事により地震時の揺れを軽減するという興味深い物でした。
ヤギモクでは機能製品を採用する際に必ず実験を行い効果を検証します。そして採用するかどうかを決めるのです。結果としては採用しませんでした。
最近木造軸組住宅でも制震工法と言われる分野が登場して営業の間では話題になっていますが、どんな内容だったのかをちょっとのぞいていましょう。

この実験は2008年に行った物で、2Pの耐力壁12体の試験体を使用しました。モジュールは1Pが1mのメーターモジュールです。また、試験当日の気温は20〜25℃程度でした。この様な粘弾性体は温度依存性もあるため、気温が低い方が硬くなり剛性が高くなります。

合板: ラワン1級合板9㎜
釘 : N50 @150㎜(告示1100号) と CN65 @80㎜(高倍率壁) の2種類
柱 : スギ 105角
土台: スギ 105角
桁 : ベイマツ 105×240
速度: テープ有り 0.5、30、50Cain テープ無し 0.5、30Cain
加力: 正負交番繰り返し5回 1/240、1/120、1/60、1/30、1/60、1/20


繰り返しを5回にしたのは各ループ毎の状況を把握する為で、1/30の次に再度1/60を入れたのは大きな変位を受けた後の小さな変位で粘性体が復活するのか興味があったからです。速度は3種類で、0.5Cainはほぼスタティックな試験と同等ですね。それが30,50Cainとなってどの様な動的特性を示すのかが注目ポイントです。(1Cainとは1㎝/秒の速度です)


まずはN50釘 @150㎜の試験体を見てみます。これは告示1100号の壁です。


速度は0.5Cainですが、これだとテープが無い方が荷重が大きいですね。
テープが入ると合板と柱との間に異物が入るため、摩擦力が下がる為です。つまり剛性が下がってしまいます。
これを5回繰り返しの各ループ毎で比較してみます。


1回目:黒 2回目:緑 3回目青 4回目ピンク 5回目赤紫 で現しています。
これで見ても、各変位ともテープが無い方が荷重が高いことが判ります。
初回の黒のグラフが荷重変形曲線で言うところの包絡線となるため、テープが無い方が降伏点も高いですね。

それでは30Cainではどうなるでしょうか。

確かに動的な試験では速度依存性が出て、テープ有りの荷重の方が大きい結果になりました。
そこで先ほどと同様に各ループの状態を見てみます。

30Cainの速度では初回ループが大きく張り出したグラフになっています。
黒のラインが包絡線とすると、先ほどの0.5Cainとは大きく異なっており、耐力が大きくなっていることが判ります。
しかし、5回目のループまで来ると、テープの有無の差はほとんど無いことが判ります。
本来、粘弾性体は厚さの500%程度の変位以内であれば繰り返し性能を発揮して欲しい所ですが、厚さが1ミリなのですぐに粘性の範囲を超えてしまい、小変形時でも2回目以降のループが合板耐力壁特有の逆S字カーブを描いています。
しかし、剛性が上がることは確かに判りました。
50Cainの試験でも1回目のループの荷重変位曲線は更に膨らみ、N50釘でのPmaxはテープ無し約21kNに対してテープ有りは約30kNとなりました。

これは建物の剛性を高め、同じ地震力に対しては確かに変形量を抑えることに役立ちます。
そして、N50釘を使った耐力壁では速度依存性がほとんど見られず、0.5Cainを30Cainにしてもさほど変化はありませんでした。
しかし、繰り返しの振動に対しての性能は余り持続しない事が判ります。
また、1/30の変位の後で1/60を再度行った試験値では両者ともほとんど上がらず、全く変わらない結果となりました。

履歴ループから計算した等価粘性減衰常数の評価では大変形時にはテープ有りが大きくなりますが、1/60くらいの変形量であれば初回ループではほとんど差が無く、2回目以降のループではさ3〜6%程度の差が見られました。
つまり、合板を張った耐力壁にも相当な減衰常数(10〜20%)を持っている事が逆に判り、勉強になりました。

これで等価耐力を考えるとそれなりに高い値が出てきますね。
問題は、この壁が告示の1100号で示されたごく一般的な強さの壁であることです。
合板耐力壁は釘の数を増やしたり、太い釘を用いるなど、わずかな手間で耐力を大きく上げることが可能なものです。
そのため、釘の打ち増しをしたり、大きな釘にするなどの高倍率耐力壁にすれば、この程度の耐力アップは簡単に実現します。

次回はCN65を見てみますね。


実験が終わった後の粘弾性体の様子です。粘弾性対がベトベトになり後の処理が大変でした。(笑)


ヤギモク 遠藤