長期優良住宅先導的モデルの耐力壁面内せん断試験

先週9月17日に浜松市の森林・林業研究センターで長期優良住宅の先導モデルに使用する為の耐力壁の面内せん断試験をやりました。これは8月初旬におこなった予備試験を、試験体数を増やして本試験にした物です。
いつもお世話になっている試験棟です。


試験体の構成は、土台、柱が県産材桧E90、梁が県産材杉平角E70以上、面材合板には静岡県産の桧を使った桧合板、厚さ9㎜3プライ、接合具にはCN65釘を外周部@50㎜、中通り@150㎜で打ち付けたものです。
針葉樹合板の高倍率耐力壁は、これまでも多数実験してきましたが、本試験で成績証にまでするのは初めてです。


県産桧を使用した桧合板

予備試験では910×3030のサイズの桧合板しか無かったため、あえて耐力の傾向を知るための予備試験のみをおこないました。今回は、ヤギモク専用のメーターモジュールサイズの合板ができてきたため、やっと正規のサイズでの試験になりました。
今年の夏はとても暑かった記憶がありますが、その前の梅雨時の大雨もひどく、桧丸太の切り出し作業が遅れ、合板工場に材料を送ることがなかなかできませんでした。やっと材料の丸太が揃い工場へ送ったのが8月末でした。それからの製造でしたので、試験に間に合うかどうか心配でした。


前日にある程度の試験体を製作しておいたため、17日の本試験では朝からすぐに試験が始められます。

まずアクチュエーターの高さ設定をこの試験体に合わせるため、調整します。


その後ホイストで吊って試験機に設置です。

この島津製作所製の試験機は足元のボルト設置が難しく、台に乗せた後が結構苦労します。


やっと設置した試験体N0.1です。

試験を終わった状態です。

一体目が終わると二体目と交換します。その後、試験の終わった耐力壁はみんなでばらします。釘が多いので解体も大変です。


今回の本試験では4体の試験体を使用します。また、その後もう1体おまけで、柱、土台を杉に変え、接合具(釘)も一般的なN50を同ピッチで打ち付けた試験体を一体だけ参考値を取るために試験しました。

翌週に川勝静岡県知事がこの試験センターを視察に訪れる事になっているため、デモ用に最後の一体はばらさずにそのまま試験機に設置しておきます。オール県産材の耐力壁です。知事も喜ばれると思いますね。


試験の方法や解析の仕方は2000年の法改正の折にオーソライズされていて、その方法で進めました。これは住木センターさんから2008年に改訂出版された「木造住宅工法の許容応力度設計」に沿っておこないました。(私たちはこの本を新グレー本と呼んでいます、業界では青本、グレー本など表紙の色で区別を付けます)
実はこの本の造り込みには、うちの研究室がかなり関わっています。出版時に各地でおこなわれた本の説明会には稲山先生や福山さん山口さんなどが対応していました。

気になる試験結果ですが、高倍率面材耐力壁では靱性の評価でほぼ決まります。

まず、取った数値からグラフを作成し、各種の数値を導き出します。
耐力壁の強さは下記の4つの耐力の最小値を使うことになります。


1. 降伏耐力Py
2. 1/120の変形時の耐力
3. 最大耐力の2/3の耐力
4. 終局耐力を構造特性係数Dsで割って0.2を掛けた数値(靱性)
(0.2を掛けるのは、C0=0.2に合わせる為です。これにより終局耐力時のエネルギー吸収量が200galの時の吸収量の5倍となり、エネルギー一定則に対応して、保有水平耐力として担保するためです。)


求められた試験結果から計算すると、バラツキ係数を掛けた短期基準せん断耐力P0は11.89KN/mでした。これは壁倍率に換算すると約6.1倍です。これに低減係数α(0.95)を掛けて、最終的な「短期許容せん断耐力」とするわけです。

計算すると約5.8倍になります。基準法の46条に定められた耐力壁の最大値の5倍を超えますが、構造計算では最大7倍までの耐力を使用して良いことになっています。今回の5.8倍に室内側のせっこうボードの耐力を加え、6.8倍の数値で計算します。
まあまあ程よい結果でしょうか。

低減係数αは、以前は合板の場合には1.0を使用していました。しかし、様々な業界不祥事も重なり、厳しめに判断する事が望まれた為、取り立てて問題が無い状態でも一応0.95として低減する事になってきました。

この様に、ひとつの数値を決定するにも、たくさんの安全率が幾重にも掛かっていることが判ります。
そのため実大実験などでは高い安全率があるため、想定する結果と食い違う事が多いと聞いています。


ここからが大切な所ですが、この倍率の数値を使った耐力壁を使い建物を建てる際には、靱性で決まる数値は比較的小さめに出ますが、終局耐力はそれなりに高いため、実際の地震時にはこの壁には、その硬さに応じた水平力が掛かることが想定されます。つまり、単純にこの倍率に必要な引き抜き力を担保すればOKでは無いと言うことです。この耐力壁の足元の引き抜きは割増して計算する必要があります。

当社が今回採択を受けた長期優良住宅先導的モデルにはこの数値を使って構造計算をおこない、地震力を通常の基準法の1.75倍にまで増やした数値をクリアーする事になっています。


現在、確認申請では基準法の46条の呪縛を避けられないため、耐力壁の評価はどうしても大臣認定を取得するか、一般的な耐力壁の強度を使用するかしか方法がありません。しかし性能表示系の評価では今回のような許容応力度計算による実際の強さを評価可能なのです。


静岡県でも地産地消の住宅があちこちで販売されていますが、イメージだけではなくしっかりと強さを評価する事が望まれます。今回の試験結果は今後当社のホームページやその他の公的機関の発表資料として開示していく事になっています。能力のある工務店がこれらの数値を上手に使える日が早く来ることを願っています。



ヤギモク 遠藤