第134回 木質構造研究会 その1

8月10日に東大農学部の弥生講堂で木質構造研究会があり、参加してきました。

この研究会はすでに30年以上続くもので、会長と運営事務局は私の所属する木質材料学研究室が担当してきました。
これまで多くの木質材料に関わる技術や知見が発表され、木造の振興に極めて大きな影響を与えてきました。
会長職は昨年、安藤先生から稲山先生にバトンタッチされました。

今回のテーマは「中大規模木質構造建築への挑戦」です。

一昨年に「公共建築物における木材の利用に関する法律」が施行され、各自治体には小・中規模の公共施設に木材を使用することが義務づけられました。それ以降、大スパンの研究や防火・耐火の研究が進められてきました。これにより、大型施設への木材の積極利用が進むかに見えました。しかし、3000㎡以上の建築物には耐火構造とする建築基準法の縛りはそのまま残っており、この壁を乗り越えなければ、この分野での木造の更なる発展は難しいのです。
そこで、現状の法律下での取り組みを紹介し、後に続く手本を示すために発表会が開かれたのです。

最初の発表は先日教授に就任されたばかりの稲山先生でした。

発表は「中断面集成材を用いた平面混構造準耐火建築物」で、6000㎡にもなるこの岩手県の「官民複合施設・オガールプラザ」でした。

当然床面積が3000㎡を越えているのでそのままでは耐火構造にしなければなりません。そこで、中間に2ヶ所、RCのコアを挟み、木造部分のそれぞれの面積が3000㎡以下になるように計画されています。そのため準耐火構造となり、木造の梁を現しにして、燃え代設計で処理できます。
木造棟の2階部分は28mものロングスパンのマンサード型方杖付き2ヒンジ山形ラーメンを1.8mピッチで並べた架構です。先生得意の汎用材を使った大型木造建築です。マンサードの足元は上部荷重を支えるため、アーチ同様開き止めが必要です。そこで20φの鉄筋を2階床面に仕込んでいます。

頂部は先生お得意の合せ梁で、木材のめり込み抵抗を巧みに利用した仕口が特徴ですね。

水平力にはRCの部分が反力壁として機能しますが、床面の一部が吹抜になっていて水平力の伝達がとぎれる部分がある事から、それぞれのブロックごとに高倍率の耐力壁が仕込まれています。

24㎜厚合板にCN75釘を細かく打ち付け、それを両面使いとする事により、詳細計算法により約12倍程度の壁倍率にしてあります。
プレカット工場での加工が可能になるように材料の端部の接合部はグランドワークスやタツミ、タナカの既製品金物を使用し、構造躯体を驚きの坪11万円程度に抑える工夫がされています。
なんと、この発表を聞くためだけに、岩手から木造建築コースの先輩の日當さんが来ていました。恐れ入りました。



次の発表は竹中工務店の五十嵐信哉氏による「耐火集成材・燃エンウッドを適用した大規模商業施設サウスウッド」でした。
これは横浜で着工された日本初の木造商業施設です。当然3000㎡を越えるため、耐火構造か、防火区画を持つ準耐火建築物にしなければなりません。なんとこの建物は、法律に真っ向勝負の、木材を現しにした耐火建築物なのです。

木造の耐火建築物は1時間以上火災に耐えなければなりません。そして建物は火災が鎮火しても倒壊しないように、柱や梁の構造用木材が燃え進まない事が求められます。実は日本のこの基準はヨーロッパなどに比べ厳しい内容になっているのです。
耐火木材の試験は、荷重を掛けたまま1時間の燃焼試験を経て、その後一晩放置して必要な構造部分に火が燃え進んではいけないのです。
恐ろしい試験ですね。以前森林総研でこの分野の授業を受けたときに、担当された先生が「試験のハードルが高く本当に大変です」と言っていたのを思い出しました。

この「燃エンウッド」は荷重支持部となるコアの集成材部分に「燃え代層」と「燃え止まり層」を張り付けた耐火集成材なのです。
この技術により、表面の燃え代層が燃え、その下の燃え止まり層が燃え進むのを防ぐのです。それにより木材を「現し」にした構造躯体が製作可能になるのです。現在、4階まで施工可能とのことです。竹中工務店では、大型の梁を試験する施設が無いため、自社で耐火実験棟を建て試験をする事により、これらの仕様認定が可能になったとの事でした。この認定は「樹種別」で有るため、使用するそれぞれの樹種毎に試験が必要なため、非常に高価な物になってしまうようです。今後は一番火に弱い代表樹種を設定し、それによる試験でいくつかの層構成が認定されると、その他の樹種でも使用可能になることが必要になりますね。

今回の燃エンウッドは燃え止まり層にコンクリート板を使用した構成ですが、ホウ素系の不燃化木材での研究も進めば良いと思いました。
大型木造の実現はまさに火との戦いです。
表面を不燃材で被服せずに木材の表情を楽しむ大型木造がたくさん建設されることが待ち遠しいですね。


ヤギモク 遠藤