第134回 木質構造研究会 その2

研究会の3人目の発表は「木造耐火による高齢者福祉施設の事例紹介」で発表者は吉高総合設計コンサルタントの吉高氏でした。

この建物は昨年9月に竣工した香川県特別養護老人ホーム「かざみ鳥」です。
バルコニーを含む床面積は3591㎡で、ツーバイフォー構法での耐火被覆による木造3階建て耐火構造です。
一般的な木造でも、木部を不燃材でしっかり被覆することで耐火構造とする事が出来ます。
この建物は国交省の「木のまち整備促進事業」の採択を受けた物件で、日本におけるツーバイフォーの耐火構造では最大級の大きさです。
木部を被覆してしまうことで木の良さを見て触って感じる事はできませんが、構造躯体が木造になることで、RC構造に比べ15%程度安く出来るのです。
コスト面の問題はこの様な施設では重要です。
以前、安藤先生の授業で、CLTでもツーバイフォーでも、しっかり耐火被覆する事により木造の用途が広がるのであれば歓迎するべきだとおっしゃっていました。何でもかんでも木材を現しにして、木の存在を強調しなくてはいけないとの認識は考えが狭いと教えられました。当然木造ですから増改築もやりやすく、使いやすい施設になるはずですね。それだけでも木造の価値があるのです。


次は、日本一寒い町の小学校・陸別小学校(子供達を暖かく包む木構造)です。
発表は日建設計の田原氏です。

陸別町は2742人で主な産業は林業と農業です。最高気温35.5℃、最低気温−33.2℃で、寒暖差なんと68.7℃という場所に建つ小学校+多目的ホールは、地場産業林業であることから地元産のカラマツ集成材を使った暖かみのある建築にしたいとの思いがあり、ホールには曲面集成材を多用した楽しい空間があります。床面積は3861㎡なので、構造はRCを界壁にして木造部分の面積を小分けして燃え代設計で処理してあります。

教室部分はRCの壁を背負い、木造の梁や柱が現しになっています。

多目的ホールは曲面集成材の芸術的な空間です。

自由曲線で出来たこの屋根は材料からすべて手作りです。

この気の遠くなる様な努力で作られたホールは町民の憩いの場所になるのだと思います。

梁の見えない場所には子供達の名前や絵などがたくさん書き込まれている事も紹介されました。子供達が大きくなっても天井裏にある自分の書いた絵が残っているこの小学校はきっと一生の想い出として残ることでしょう。



最後は「南極における自然エネルギー棟建設について」と題して、ミサワホーム(株)の渡辺氏が発表しました。

これは南極の昭和基地に建つ他用途施設で床面積は520㎡で木質接着パネルによる地上2階建てで太陽熱利用パネルを搭載しています。
渡辺さんは建設チームとして一冬越冬したとの事ですが、作業が出来るのは1年間でわずか40日足らずとの事でした。また、建築隊員は4〜5名しか居ないため、研究者や医者、調理人やしらせ乗組員等に協力して貰い皆で施工する訳です。そのため組み立ては簡単にできなければなりません。工期が短いため、工程の管理は大変だろうと思います。
この建物は耐火構造ではありませんが、極寒の地に建つ建築は大変参考になりました。


今回の研究会は、現在関心の高い大型木造施設という事もあり、聴講者が多く盛況でした。
この様な施工事例が更に増え、木造の活用範囲が更に広がる事を期待したいですね。


ヤギモク 遠藤