坂本雄三先生の最終講義

昨日東大工学部2号館に於いて坂本雄三先生の最終講義がありました。
2月の中旬にこのニュースが届いたときには大変驚きました。なぜなら先生は定年までにもう1年あり、この24年度が退官までの最終年度になるはずだったからです。
2年前に先生の「建築熱環境」は全出席のうえ単位を頂きましたが、実は最終年度の今年は先生の授業をもう1科目受講するつもりでいたのです。残念ながらそれも先生の退官で出来なくなってしまいました。

今回の最終講義はどの様な内容なのかとても楽しみでした。そのためすこし早めに教室に入り一番良い席で受講しました。
講義のタイトルは「シュミレーション/省エネルギー/低炭素文明」でした。当初1号館の15号教室で行われる予定でしたが、受講応募者が多く、200人以上入る2号館の教室に急遽変更になりました。


先生が演壇に立つと大きな拍手が起こり、はにかみながら、ご自身の経歴とこれまでやって来た研究の内容、そして近代の日本の文明を独自の切り口で話されました。あっという間の2時間10分でした。

タイトルの中で「シュミレーション」として揚げたことは
流体力学における室内気流の計算を乱流モデルとしてモデル化して偏微分方程式を駆使して予測する。
熱負荷計算ソフトBRIMAPでは他室間問題や換気連成をあつかい大型コンピューターを用いて開発し、パソコンでも計算可能な熱近似回路に置き換えたSMASHの開発が出来たこと。
熱湿気同時移動H&Mをフランスと共同研究。
空調コイルでの潜熱・顕熱の熱交換プロセス
などでした。

省エネルギー」では省エネ住宅に取り組み多くの基準の策定に関わり、更にIBECでの基準認定制度の構築を行い、それが断熱気密住宅の普及に繋がりました。この認定制度はもちろんヤギモクでも取り組み、「気密評定」「次世代省エネ評定」を取得し、その過程で坂本先生を訪ねて東大の1号館の先生の研究室にご指導を御願いに伺った事を思い出しました。
ここまでが約1時間の講義でした。

後半の「低炭素文明」では、建築の世界に気密性能や断熱性能を取り入れる事に真っ向から異論を唱える建築家達を、近代西欧文明に接した幕末の日本人になぞらえ、新たな価値を求めていくことへの重要性を説明されました。実はその話からなぜか「文明ってなんだろう?」という話題に転換し、日本人の価値観と世界の近代の状況を説明しつつ、先生独自の近代日本と世界観を話されました。実はこの1時間が、極めて面白いお宝授業でした。

司馬遼太郎梅棹忠夫などの考えを紹介し、近代西洋文明を幾つかの角度から説明し、日本人の持つ特質として合理的・現実的・好奇心が強いなどをもとに、今後の低炭素社会の実現は、日本が率先して世界に通じる技術として醸成し、日本が生き残る道として行こう、というメッセージに繋げました。
お見事!
と言うか、凄い展開でした。
最後の講義として皆の印象に深く残るコンテンツを示し、日本や私たち自身を見直す事をもって、後進の意識高揚に繋げたい。という思いは明快に伝わりました。ありがとうございました。

実は昨日の朝、木材新聞でこの様な記事を見つけました。

なんと、坂本先生が建築研究所の次期理事長に就任すると言うものです。これまで退官後の去就がささやかれてきましたが、なかなか情報が出回らず、どうなっているのか気になっていましたが、これで納得です。

最終講義の後、三四郎池の横の山上会館で懇親会が行われました。

多くの先生を慕う人たちが集まり、先生の周囲には挨拶をするための人の列が出来ました。
もちろん私もご挨拶に伺い、今後ヤギモクでも全館空調住宅を実験的に進める事をお知らせしたら大変喜んでいただきました。
会場では断熱や熱移動などの研究者や業界関係者の知り合い達に再会し、色々な情報交換が出来たことはとても有意義でした。
これからも一生懸命勉強して、よりよい住宅を目指したいものですね。


ヤギモク 遠藤